第64回全国高校軟式野球選手権大会を振り返って

コラム

中京学院大中京の史上2校目の三連覇、単独最多の10回目の優勝で幕を下ろした第64回全国高校軟式野球選手権大会。今大会を結果とともに振り返る。

第64回全国高校軟式野球選手権大会 全試合結果

1回戦
2019年8月24日
明石トーカロ
福岡大大濠 0-1 中京学院大中京
2019年8月24日
明石トーカロ
鹿児島実 4-2 能代
2019年8月24日
ウインク
南部 1-4 松商学園レポート
2019年8月24日
ウインク
あべの翔学 4-1 高崎商レポート
2019年8月25日
明石トーカロ
神戸村野工 1-0 仙台商レポート
(延長10回)
2019年8月25日
明石トーカロ
崇徳 7-0 早大学院レポート
2019年8月25日
ウインク
矢掛 7-3 北海道科学大高
2019年8月25日
ウインク
新田 1-0 三浦学苑
2回戦
2019年8月26日
ウインク
中京学院大中京 2-0 鹿児島実
2019年8月26日
明石トーカロ
松商学園 2-3 あべの翔学
2019年8月26日
ウインク
神戸村野工 0-1 崇徳
2019年8月26日
明石トーカロ
矢掛 2-3 新田
準決勝
2019年8月29日
明石トーカロ
中京学院大中京 5-0 あべの翔学レポート
2019年8月29日
明石トーカロ
崇徳 7-1 新田レポート
決勝
2019年8月30日
明石トーカロ
中京学院大中京 – 崇徳
(ノーゲーム)
2019年8月31日
明石トーカロ
中京学院大中京 5-2 崇徳レポート

2連覇のチームを超えた中京学院大中京

突出した選手、チームが不在だった今大会。

それを象徴するかのように中京学院大中京が「総合力」で頂点に立った。大会三連覇がかかり、戦前から「大会の軸」として期待されていた中京学院大中京だったが、過去の2年とは事情が大きく異なっていた。佐伯という全国選手権を2年連続一人で投げ抜き、無失点で連覇してしまった怪腕が抜けた新チームは秋の県大会で敗退。長く、厳しい冬を過ごした。決勝後に中京学院大中京の平中監督が「1年前にはこの舞台に立てるとは思っていなかった」と本音を漏らしたように、決して中京学院大中京が「圧倒的な強さ」で、他の出場校より抜きん出ていたわけではなかった。

では、中京学院大中京が史上2校目の大会三連覇を達成できた要因は何だったのだろう。私は中京らしさへの回帰にあると思う。過去2年は圧倒的な投手力で優勝したことは否めない。謂わば過去2年は特別だった中京学院大中京が、中京らしい「負けない」軟式野球に立ち返った結果、もたらされたのが三連覇だったと私は見ている。昨年までが良い悪いという話ではなく、昨年までの優勝とは意味が大きく違ったのだ。

外野からの返球に安定感があった、という理由で水が投手に抜擢された。唯一1年生から全国の舞台に立ち続けた保木平が経験を買われて扇の要を任された。2年生で全国優勝を経験した村瀬が主将としてチームをまとめ上げた。福岡大大濠戦、あべの翔学戦で2打点を上げた熊﨑は「叩き専門」というオンリーワンの仕事を全うした。派手な選手は一人としておらず、大会を通して失策はゼロ。決勝の崇徳戦で3つの内野ゴロで一気に3得点したとき、「これだ」と思わず唸った。これが負けない軟式野球だ。

平中監督は語った。「2連覇のチームよりも、間違いなく総合力は上」。伝統に回帰した中京学院大中京は、総合力で偉業を掴み取ったのだ。

中京学院大中京の熊﨑は「叩き専門の代打」として今大会2打点を上げた

史上最強崇徳

戦前には「学校史上最強」の評価もあった準優勝の崇徳。前評判通り、公式戦無敗の崇徳は攻守においてバランスのとれたチームで学校初の決勝進出という記録を残したわけだが、このチームもまた、突出して目立った選手がいたかと問われると否だ。エースの高井は球威がある好投手で、クリーン・アップも務めるチームの軸ではあった。しかしこのチームの強みはやはり、上位から下位までバットを振り抜くことができる攻撃力にあった。準決勝の新田戦では大会記録に並ぶ4本の二塁打を放つなど、大会を通して攻撃陣は好調を維持した。1回戦で4安打を放った1番の寺岡、4番の堀内は全4試合でヒットを放ったし、7番の中岡の走り打ちは技術が高かった。9番前良は4試合で打率5割、8番の朧谷は決勝で中京学院大中京から今大会唯一の得点を叩き出した。正に下位まで抜け目がない打線。一振りで試合を決めてしまうような強打者はいなくとも、全国でも勝ち上がることができるチームを見事に作り上げた。

スター不在の大会の決勝戦は、両チームとも総力を上げたぶつかり合いになり、とても見応えのあるものだった。得てしてスターとはメディアがつくり出すものである。幸か不幸か過大な報道がなされない高校軟式では、よっぼどの規格外選手が登場しない限り「スター選手」はつくられにくく、純粋に一投一打を見ることに集中することができる。派手さはない選手たちが何気なくみせるハイレベルなプレーに、高校軟式の真髄を見て取ることができる。高校軟式の醍醐味を改めて感じる令和最初の全国選手権だった。

高校軟式の価値を上げたあべの翔学の躍進

創部3年目のあべの翔学が初出場で4強入りを果たした。1回戦では春の関東大会王者の高崎商に完勝すると、2回戦は松商学園に競り勝ち、準決勝の中京学院大中京とも互角に渡り合った。

2014年に大阪女子商が共学化して誕生したあべの翔学は、創部3年ながら60名を超える部員が在籍する大所帯。僅か3年で全国のトップ4に上り詰めた背景には、熱心な指導者の存在や、恵まれた練習環境や積み重ねた強豪との練習試合など、本気で全国を獲りにいく強化があったと伝え聞いている。しかし、何よりも印象的だったのが、初めての全国の舞台にもかかわらず、プレッシャーを力に代えて、楽しそうにプレーする選手たちの姿だった。いかにも大阪らしい、いいチームだった。

新しい勢力の台頭は高校軟式全体の活性に繋がるから大いに歓迎されるべきだ。そして、これは楽観的と言われるかもしれないが、私は今回のあべの翔学の活躍を追うようにして、今後もこのような新興チームが生まれてくるのではないかと思っている。少子化に伴う共学化や学校の統廃合などにより、新設の野球部や同好会がつくられる機運が生まれると、日本人に馴染みが深い「軟式」がまず選択肢に入ってくるだろう。また、多様性という観点から甲子園以外の選択肢としての軟式が選ばれる可能性もある。高校野球への問題が大小様々、いろいろなところで提起され、高校野球(学生スポーツ)が「変わらなければ」という雰囲気が世の中に充満する中で、本気で全国を目指せば、3年で到達できることをあべの翔学が示してくれた。あべの翔学の躍進を軽んじるつもりは全く無いが「3年で明石にいける可能性」があるのだ。

競技人口の減少を最たるものとして、日本の野球は大きな課題に直面している。高校軟式も例外ではなく、高野連の加盟校数は年々減少の一途をたどっている(今大会は385チームの参加と、400の大台を割った)。高校野球という点では、硬式とのパイの取り合いでは根本的な解決にはならない。軟式の価値、魅力をいかにして高め、その可能性を伝えていけるか。あべの翔学の今年の活躍は、高校軟式という大きな視点でも価値のあるものだったと言えるのではないだろうか。

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