2025年夏の第70回全国高校軟式野球選手権大会で岐阜の中京が硬式・軟式通じて史上初の大会4連覇を達成した。その偉業の裏では、日頃から県内でしのぎを削るライバル校の存在がある。王者の背中を追う公立高校の活動を取材した(全2回。前編はこちら)。
2025年10月、秋の岐阜県秋季大会1回戦。前年の東海チャンピオンの恵那は1回戦で多治見北と対戦して2-5で敗れた。前年より1ヶ月も早くオフシーズンへと突入。あまりにも短い秋だった。
少し肌寒さを感じ始めた同月下旬の平日。16時頃、強い西陽が照らす恵那高校のグラウンドに選手たちが姿を現した。
恵那高校軟式野球部は取材日時点で2年生6人(マネージャー1人)、1年生6人(うち女子選手1人)の計13人が所属。恵那市や中津川市など、岐阜県東濃地方の中でも東部の選手を中心に構成されている。
この日は10人の選手がキャッチボール、ティーバッティング、守備の基礎練習など、各自の課題に取り組んだ。同部は秋の公式戦を終えると基本的には全体練習を行わず、完全に個人練習へと移る。「練習メニューに口は出しませんし、否定もしません。1人1人の判断を尊重しています」と加藤貴裕(たかひろ)監督は説明する。
就任4年目で東海王者に
加藤監督は岐阜県内の高校で硬式野球部に所属し、進学した日本体育大学で軟式野球をプレーした。卒業後、2011年から2年間、恵那高校に勤務していたときに軟式野球部の秋季東海大会初優勝に立ち会った。その後、飛騨地区の吉城高校、中津川市の定時制の高校を経て、2021年春、再び恵那高校に戻り、軟式野球部の監督に就任した。
就任4年目の2024年秋季県大会は決勝まで勝ち上がり中京と対戦した。5-6で敗れたが10回タイブレークまで王者を追いつめて、岐阜県2位で東海大会に進出。東海大会では津工、桜丘、東邦、静岡商を下して13年ぶり2回目の優勝を果たした。
「1つ上の世代、つまり今年の春に卒業した生徒(23-24世代)たちの存在が大きかったと思っています。彼らは本当に努力できる世代でした。うちは平日は18時には部活を終えなければいけませんが、課題の提出や生徒会活動などで15分ほどしか練習時間が残っていなくても、ダーッとタイヤ引きだけしてヘロヘロになりながら帰るような選手たちでした。そうした努力できる先輩の姿を間近で見ていたのが、秋の東海大会を優勝した今の3年生たちです」。
ただ、東海大会を制した翌日のミーティングでは、すぐに春の大会へと意識を向けさせた。13年前の秋の東海大会を制したとき、翌春の県大会は1回戦で負けた苦い記憶が蘇ったからだ。「俺たちは中京に勝ったわけじゃない。それで本当に強いと言えるのか?」と、緊張感を持たせる言葉をかけ続け、一冬を越した。
そして新シーズンが開幕。春で引退する3年生にとって最後の県大会の決勝戦で中京との再戦が叶った。接戦の末に5-4で勝利。正真正銘の岐阜の王者になった。
「どうしたいのか」と向き合う冬
冒頭の冬の個人練習について、加藤監督はその意図をこう説明する。
「メニューに縛られないこと、自分に必要な練習を選ぶこと、そして『会話すること』を身につけてほしいと思っています。個人やチームの課題を選手たち同士で話し合いながら、それぞれがしなければいけない練習メニューを選ぶ。『なぜその練習を行うのか』を自分の言葉で説明できることを求めます。
ただ選手にすべてを任せるこの方法が、リスクと隣り合わせであることも十分理解しています。サボろうと思えば、いくらでもサボれます。
だから選手たちには『どうしたいか』を繰り返し聞きます。『中京に勝ちたい』と答えるなら、『本当に今の練習で勝てるのか?』と何度も聞き、意識づけるようにしています。自分で練習を選ぶことは責任を伴うことも学んでもらえたら」。
進学校として活動時間に制約があるからこそ、徹底した効率も求める。「週の半分は叩きの練習しかしていません。野球の練習はとにかくやることが多いので、全部やっていると、それぞれのボリュームが小さくなってしまいます。だから、そこはかなり割り切っています。賛否あるとは思いますが、例えば、内野併殺の二塁への送球練習はしません。確実に一塁で1つずつアウトを取って、2死三塁でOKと考えます。試合前ノックも一塁送球しかさせていません」。
明石は意識せざるを得ない
2024年秋の東海大会の戦いぶりが評価され、2025年に初開催された春の軟式交流試合in甲子園では捕手の岩山大翔選手とともに、西日本選抜の責任教師として甲子園に立った。スタンドから”声援が降ってくる感覚”を肌身で感じた。
秋の東海大会優勝、甲子園でのプレーと前後して、全国の強豪校と練習試合をする機会も増えた。「選手たちには当たり前とは思ってもらいたくありませんが、それでも自信になっていると思います。そういう世界を見せられるようになったのは有り難いです」と加藤監督。
現2年生の岡田湊永(そうえい)主将も「昨年秋の東海優勝と甲子園で、周りの先生方や友人たちからも軟式野球部の活動を気にかけてもらえることが増えたように感じています。ただ、僕たちは夏、秋と結果を残せていません。春に後悔しないよう、この冬は練習に意図を持って、技術と連携を深めていきたいです」と意気込む。
東海大会制覇と中京からの勝利。激動の1年を過ごした恵那高校軟式野球部。加藤監督は「ここまで来たら、『明石』を意識せざるを得ません」と決意を新たにする。
残されたピースを埋めるため、選手の自主性を重んじたチームづくりはこれからも続く。
【恵那高校軟式野球部】
- 部員数:選手12人、マネージャー1人
※ 2年生7人(うちマネージャー1人)、1年生6人(うち女子選手1人)
※ 2025年11月現在 - 近年の実績:第72回東海総体岐阜大会優勝、第39回秋季東海大会(2024)優勝
- SNS:Instagram
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