2025年夏の第70回全国高校軟式野球選手権大会で岐阜の中京が硬式・軟式通じて史上初の大会4連覇を達成した。その偉業の裏では、日頃から県内でしのぎを削るライバル校の存在がある。王者の背中を追う公立高校の活動を取材した(全2回)。
JR岐阜駅から北東へ2.5kmほど。長良川の南に位置する県内随一の進学校・県立岐阜高校。硬式野球部は1873年(明治6年)年に立ち上がり「日本最古の野球部」と言われるが、軟式野球部もまた1957年(昭和32年)の創部で、軟式の全国選手権大会とほぼ同じ歴史を刻んできた。
2025年10月下旬、平日の夕方に同校のグラウンドを訪れると、軟式野球部員10人(内マネージャー1人)が「バッティングゲージを2か所つくるのがやっと」といった約30m×70mほどの縦長のスペースで練習に励んでいた。グラウンドの脇に置かれたホワイトボードには、その日のテーマと、選手が決めたメニューが書かれ、その順番に従って選手たちが入れ替わり立ち代わりテンポよくゲージに入る。
さらに途中からその「スペース」の大部分を他の部活に明け渡し、最終的には一般的な球場の内野ファールゾーンほどのエリアで守備練習に取り組んだ。「以前は長良川の空き地で練習していたと聞いていますので、学校で練習できるだけでもありがたいです」と及川太郎監督はこの状況を説明する。
平日は月・水・金の放課後に約2時間30分、週末は試合日を除き土日いずれか半日という限られた時間の中で活動する。メリハリのある時間の使い方が実を結び、過去3年連続で同部から東京大学合格者を輩出している。
2017年秋に悲願の東海大会初出場を果たすと、2018年夏には下級生だけで選手権東海大会にも進んだ。
選手たちだけで力をつけられるように
及川監督は県外の硬式野球部、国立大の軟式野球部でプレーし、それまで縁がなかった岐阜県で高校教諭になった。前任の飛騨地区の学校では硬式野球を指導。同地区の吉城高校には軟式野球部があり、また2014年の『延長50回』のこともニュースで触れていたことで、高校軟式野球の存在自体は認知していた。
2019年に岐阜高校に赴任して軟式野球部の監督に就任。初めて高校軟式野球の実態に触れ、一からチームづくりに邁進した。途中、監督業から離れる時期もあったが、2021年秋、2022年秋と2年連続でチームを東海大会出場に導いた。
「就任した当時と比べれば、軟式野球部の活動を認めてくださる方や、結果を気にかけてくださる方も増えてきました。ただ公立高校である以上、次に野球経験がある方が顧問になられるとは限りません。将来、野球の指導をできる存在がいなくなった時に部員が何をすればいいか分からないという状況になるのは残念なことなので、部員たちで練習メニューを考えて、力をつけられる仕組みづくりをしている最中です」。
主将を中心にその日の練習環境や課題にもとづき、分単位でメニューを作成する。「基本的には選手に任せますが、どうしても自分たちだけでは厳しく追い込めないこともあります。その辺りを上手くサポートしながら、自分たちだけで負荷をかけられるチームになってもらいたいです」。
新入部員はわずかに2人。急きょ訪れた危機
2024年までの過去10年は1学年平均12、3人が在籍し、3学年30〜40人で活動してきた。しかし2025年春は新入部員が激減し、わずかに2人にとどまった。春の大会で3年生の選手15人(マネージャー2人)が引退したことで選手は9人(同1人)に。わずか数ヶ月の間に近年では例がない存続の危機が訪れた。
及川監督は「中学部活動の地域移行による影響を受けている可能性もあります。硬式・軟式ともに入部しなかった野球経験のある生徒の話を聞くと、(小中学校の経験から)野球そのものに良いイメージがないケースもありました。そういった生徒にも、まずは私たちの活動を見てもらえるようにしなければいけないと考えています」と現状を分析する。
環境に言い訳せず、前を向いて
ただ、この状況を黙って見過ごしているわけではない。
2024年夏には伝統あるシンプルなユニフォームのデザインを思い切って現代風に刷新した。またマネージャーの活動を野球専門誌に推薦して掲載してもらったり、マネージャーがInstagram、監督自らがXと役割を分担して更新するなど、近年は積極的なメディアへの露出や取り組みを加速させている。
及川監督は高校軟式の魅力を「始めやすさ」だと語る。野球は小学校や中学校でプレーしそびれてしまうと、高校で始めたくても硬式野球ではハードルが高すぎる。そんな子どもが始められる環境を軟式野球部が提供できないか、と考える。「選手たちからも『経験者だけ集めていては、これからは活動できなくなると思う』といった意見がありました。彼らの方こそ現実が見えています」。
同部の石本煌陽(こうよう)主将(2年)は中学から軟式野球をプレーし、先輩がいたことで岐阜高校に軟式野球部があることは知っていたが、野球を続けるかどうかも迷っていたという。「(活動を見学して)これなら勉強もできるかな」と入部し、1年生の春休みには海外で1週間の研修に参加し、2年生では高校生ビジネスプラン・グランプリに挑戦するなど、部活以外の学校生活ともうまく両立させている。「真面目に野球もできるし、軟式を選んで良かったです」。
この秋の大会は県大会1回戦で敗退し、その後、岐阜地区の2校(岐阜聖徳学園、県立岐阜商)が決勝まで進出。東海大会出場を果たした。いずれのチームも登録選手は十数人とギリギリでの快進撃だっただけに「彼らがあの人数で勝てたんだから、自分たちもできるはず」と選手たちはあくまで前向き。「今は人数は少ないけれど、その分、一人が練習できる量は多くなるとポジティブに捉えて、この冬は打撃を強化していきます。春の『打倒県岐商』が目標です」と石本主将は力を込める。
「(強くなるために)本音を言えば、練習日数を増やしたいのは選手も私も同じです。ただ限られた時間、環境を含め、言い訳せずに目標に向かって取り組める選手になってもらえたら」と及川監督。
どのチームでも直面しうる危機的な状況にありながら、岐阜高校軟式野球部に悲壮感はまったくなかった。それどころか、選手たちが次の試合を心から楽しみにしている笑顔が印象的だった。
【岐阜高校軟式野球部】
- 部員数:選手9人、マネージャー1人
※ 2年生8人(うちマネージャー1人)、1年生2人
※ 2025年11月現在 - 近年の実績:
- 第37回秋季東海大会(2022)出場
- 第36回秋季東海大会(2021)出場
- 第61~63回岐阜地区高等学校総合体育大会(2022〜2024)優勝
- 部紹介ページ:https://x.gd/Ss3FN
- SNS:X、Instagram
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