インタビュー

高校軟式には「日本の野球」が凝縮されている|緒方健太郎さん(ウサンクサーニシヤマの422号室)

インタビュー

九州から高校軟式野球をYouTubeで発信している男性がいる。

熊本の名門・開新高校軟式野球部OBで、現役時代には全国選手権にも出場した緒方健太郎さんは、経験者だからこそ伝えられる軟式野球の魅力を届けようと奮闘している。

YouTubeチャンネル「ウサンクサーニシヤマの422号室」は2021年2月に初めての動画を投稿した。緒方さん扮する熊本弁を操るワニ・ウサンクサーニシヤマと、その相方・ゆーさんによるトークチャンネルだ。

もともとは、自身が日頃から感じていることを残しておける場にしたいとYouTubeを始めた。その年の夏に母校の開新高校が全国選手権出場を決めたことに触れたところ、視聴者から多くのリアクションがあったこともあり、高校軟式野球の話題も増えた。

中学ではシニア(硬式)チームに所属して全国大会に出場。高校でも当初は硬式野球部に入部したが、様々な葛藤の中で1年生の夏を前に退部。その後、約半年のブランクを経て、軟式野球部に加入した。初めて軟式野球部員として迎えた2年生の夏、開新は強豪の河浦などを下して、11年ぶりの全国選手権出場を決める。緒方さんは三塁コーチャーとして明石の地を踏んだ。

2006WBCの日本の野球が軟式のベースに

硬式と軟式、どちらも経験したからこそ感じることがあった。

緒方さんが軟式野球部に入部した直後の2006年3月、第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催され、イチローや松坂大輔などを擁した日本代表は初代王者に輝いた。

「当時の監督にも、あのときの全員で繋いで1点をもぎ取りにいった野球こそ、正に『軟式』だと教わりました。あの体験が、軟式野球を始めたばかりの自分の、考え方のベースになったと思います」

バントやエンドラン、盗塁などのいわゆる機動力を重視した野球は「スモール・ベースボール」と言われる。そして2006年のWBCや、2021年の東京五輪など、日本が世界で活躍をする度に、「日本の野球の強みはスモール・ベースボールだ」と評価されてきた。

「長打が出にくい高校軟式は、ある意味、日本の野球の良さが凝縮されていると思うんです。日本の野球の原点って何だっけ?となったとき、高校軟式を観戦すれば、それを再認識できます」

一方で、こうした特徴の野球は「地味な野球」に映る傾向がある。ハイレベルになればなるほど、スコアは動きづらく、叩きの1点で試合が決まることも珍しくない。

「スポーツ観戦という視点では、どちらかというと軟式野球は『玄人向け』なのかもしれません。好みもあるので一概にどちらが面白い、とは言えません。ただ、高校軟式を『特殊な野球』とみなしている人には、これこそが日本の伝統的な野球だということを伝えたいです」

本当の喜びを伝えられる指導者が増えて欲しい

高校軟式に山積する課題の中でも、チーム間の実力差には大きな危機感を抱いているという緒方さん。

「特定の学校を指しているわけではありませんが、基礎ができていないチームが実力以上のことをやろうとすることで、その差がより大きくなってしまっていると感じています。

軟式野球という性質上、キャッチボールがふつうにできるチームが増えるだけで『スコア上の差』はかなり小さくなると思います。

あと、野球ができることで満足してしまっている選手も多いような気がしています。それはそれで良いと思うのですが、本当の喜びは、何かができるようになったり、どんなに小さな目標であってもそれが達成できたときに得られるものだと思います。そんな喜びを選手に伝えられる指導者が増えて欲しいというのが僕の願いです」

熊本の選手権大会予選が開催される水前寺野球場を案内してくれた緒方さん。今も、ほぼ毎年、母校の応援に訪れている。


今後も折に触れて、高校軟式野球を取り上げていきたいと話す緒方さん。

「目に見えない野球の奥深さであったり、『質』の部分を伝えていきたいです。気になったワンプレーから軟式的な要素を見出したり、すごく細かい解説をしても面白いかもしれませんね。僕ができることをやっていきたいです」

熊本は江津湖から生まれた「言うべきところは言う」ワニとともに、これからも変わらぬスタンスと視点で高校軟式野球を盛り上げていくつもりだ。

■ウサンクサーニシヤマの422号室

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