明石トーカロ球場
第62回全国高校軟式野球選手権大会 1回戦
全国選手権の組み合わせが決まると、毎年必ず「いきなり当たるのか」と思わせてくてる顔合わせがある。昨夏のそれは「天理vs能代」だった。そして、今年、真っ先に目に入ってきたカードが「文徳vs中京学院大中京」だった。
この両者、第57回大会(2012)決勝で顔を合わせている。その時は中京(当時)が延長の末に勝利し、第56回大会に続く大会連覇を達成した。
文徳は秋・春の九州大会を制し、満を持してこの夏に挑んだ。2回の九州大会決勝で対戦した鹿児島実、県内ライバル校の開新などを倒し、2年連続の全国選手権に進出してきた。昨年は1回戦で敗退。その悔しさを初戦にぶつける。
中京学院大中京(今年4月、中京から校名変更)は2年ぶりの全国選手権。3年前の全国優勝校も、連覇を懸けて臨んだ2年前の第60回大会は、1回戦で新田にノーヒット・ノーランで敗れ苦杯を嘗めた。今年のチームは2年生エースの佐伯ら投手陣の層が厚い。
文徳のエースナンバー安武の序盤の投球は、これ以上ない最高のものだった。初回にアウト3つをすべて三振でとると、3回までの打者一巡で7奪三振。中京学院大中京の打者のバットが次々と空を切る。
中京学院大中京の先発、2年生エースの佐伯も負けていない。140km台に到達すると言われる速球をどんどん走らせ、制球も抜群に冴えわたる。3回まではパーフェクト。4回に初めて四球で走者を許すが、後続を危なげなく断つ。こちらも5回までに7奪三振と、全国の初戦とは思えない、堂々とした投球を披露する。
中京学院大中京は4回表、先頭を死球で出すと、4番岡田のセンター前などでチャンスを広げ、二死2、3塁とこの日初めてチャンスをつくるも、加納が三振に倒れる。5回表にも、二死ながら1、3塁とし、一走が二盗した間に、三走が本塁突入を試みるが、ここはタッチアウト。ここも先制とはならない。
しかし、序盤からフルスロットルで飛ばした文徳の安武。試合が中盤に差し掛かると、制球の乱れがはっきりと見て取れるようになる。すると、グラウンド整備直後の6回表に試合は動く。
中京学院大中京は先頭の2番坪井が4回に続いて死球で出塁すると、続く3番保木平も四球を選ぶ。内野ゴロで進塁し、一死2、3塁で打席には6番小倉。ここで小倉が低めの球を空振りした際に、ボールが横に逸れ、三走が生還。更に、二走も一気に本塁に返り、中京学院大中京がノーヒットで2点の先制に成功する。
2点をもらった後も、中京学院大中京の佐伯は落ち着いた投球を続ける。6回裏には文徳8番米本にこの日チーム初ヒットを許し、二死3塁を迎えるが、ここは2番上村をセカンドライナーに打ち取る。7回裏にも文徳先頭の3番西山にレフトオーバーのツーベースを放たれるが、2本の内野フライと三振で切り抜ける。
試合は中京学院大中京が2点リードのまま最終回へ。文徳は二死から3番の西山がこの日2本目のヒットをセンターに弾き返して粘りを見せるも、4番の野中はライトフライに倒れて、ゲームセット。3年ぶりの全国制覇を狙う中京学院大中京が、秋春九州王者の文徳を下して、2回戦に進出した。
序盤の両エースによる投げ合いは、全国選手権でしか観ることができないだろう、ハイレベルなものだった。このままの投球が続けば、間違いなく1点勝負になると思った矢先に、制球が乱れたのは文徳の安武だった。安武が与四死球6に対して、中京学院大中京佐伯は僅かに1。この数字の差が、そのまま勝敗へと繋がった。自らの良さを試合の最後まで貫いたのは、中京学院大中京の2年生エースだった。
安武も佐伯と同じように2年生で全国のマウンドに立ち、そして、振り逃げの1点に泣いた。あれから1年、今年もその場所に帰って来た。今年こそは。しかし、その勝利は遠かった。12奪三振という負け投手らしからぬ記録と、鮮烈な記憶を高校軟式ファンに残し、好投手がまた、1回戦で姿を消した。