コラム

高校軟式でも「500球制限」導入へ

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先月29日の日本高野連理事会で、来春の選抜大会から投手の1週間の投球数を500球までに制限するルールを導入することが決定された。

1週間で500球以内 投手の球数制限を正式決定 高野連 | NHKニュース

記事によると、

・来年春のセンバツ大会から1人のピッチャーの投球数を1週間で500球以内に制限する

・試合中に制限に到達した場合は500球目を投げたバッターの打席が完了したあとに交代する

・雨などによるノーゲームや再試合となった試合の投球数も500球の制限に加える

・主な大会で3連戦を回避する日程を組む

申告敬遠も来春から導入される

といったことが決定に盛り込まれたようだ。なお、これらの決定はすべて軟式にも適用される。

このいわゆる「500球制限」が高校軟式にどの程度影響を与えるのか気になるところ。近年の全国選手権を一例にみてみたい。

2018年第63回大会の場合

参照した一球速報.comではなぜか今年の第64回大会の記録を見ることができなかったので、2018年の第63回大会をみてみたい。この大会では中京学院大中京の佐伯(現同志社大準硬式)が4試合を一人で投げ抜き、2年連続の無失点優勝を果たした。全国選手権初勝利から準優勝まで駆け上がった河南も2年生エース山岸が決勝まで4試合を投げ抜いた。

8/24
1回戦
8/25
1回戦
8/26
2回戦
8/27
休養日
8/28
準決勝
8/29
決勝
TOTAL
中京学院大中京
佐伯
127
(9回)
116
(9回)
124
(9回)
113
(9回)
480
河南
山岸
109
(9回)
122
(9回)
157
(9回)
120
(9回)
508

 

佐伯は4試合36イニング480球。山岸は4試合36イニング508球。こうしてみると、500球という数字に科学的な根拠があるかないかは別として、とても絶妙な数字であることが分かる。全国トップレベルの投手が延長戦なしでこの数字なので、大会の日程が大幅に変わらない限り、今後、1人のエースが1大会を投げ抜いて優勝を果たすケースは見られなくなりそうだ。

3連戦の回避

500球制限と合わせて決定された3連戦の回避。「主要大会」がどこまでを指すかは分からないが、春夏秋の公式戦はほぼこの方針の下で日程が組まれることが予想される。

現在、3連戦以上の日程が組まれている地区大会は以下の通り。

・北海道(夏、秋)

・東北(春、秋)

・関東(春、秋)

・北信越(秋、春)

・東海(夏)

・中国(春)

・九州(春、秋)

・国体(4連戦)

選手権大会(夏)で該当する北海道、東海をはじめ、春、秋を含めると近畿、四国以外すべての地区で大会日程の変更が検討されることになりそうだ。また秋の国体も1回戦から始まった学校が決勝まで勝ち上がった場合、4連戦となる日程が組まれている。

4連戦の関東大会

春、秋に行われる関東大会は現在、16校が参加し、決勝まで4日連戦の日程が組まれている。この関東大会の日程にも恐らくメスが入ることにはなると思うが、このような日程だからこそ、今の関東を勝ち上がるには複数の安定した投手の存在が絶対条件になっている。

この秋の関東を制した三浦学苑はエースの原が主戦を務め、小宮がストッパーの役割を果たした。2019年春の関東大会準優勝の慶應義塾も阿蘇ー長谷川の必勝リレーが確立されていた。

全国に目を移せば、今年の第64回大会優勝の中京学院大中京はエース水の後ろには揖斐がバックアップしており(揖斐は国体2回戦で矢掛を完封)、同準優勝の崇徳はエース高井と背番号5の前良がマウンドを分け合った。第61回大会準優勝の早大学院(東京)のエース小泉と背番号6の藤井による躍進も記憶に新しい。これら複数投手の育成に成功したチームの例から学べることは多いはずだ。

 

今回の500球制限は高校軟式にとっても一つの転機となりそうだ。とは言っても、高校野球ではエースないしは主力級の投手1人の活躍が勝敗に大きく影響するため、エース以外の複数投手で勝ちましょう、というのも簡単な話ではない。しかしルールの中で争われるのがスポーツであり、ルールの中で勝てるチームが真の勝者となる。極端な話、全員が投げられなければ勝つことができない時代がくるかもしれない。

現役選手の頭の片隅にでも置いてほしいことは、高校を卒業してからの人生の方が圧倒的に長いということだ。特に軟式野球は生涯に渡って楽しめるスポーツ。先日、イチローさんが草野球デビューを果たしたことがニュースになっていたが、純粋に野球を楽しむイチローさんは本当にいい顔をしていた。

高校で野球をプレーすることを選んだ人にとっては、良くも悪くも一生涯に渡って野球というスポーツが特別なスポーツになる。スポーツをする以上、勝敗にこだわることはとても大切なことだし否定はしないが、将来、白球を握りたくてもそれが叶わない人生はとても悲しい。今回の球数制限によって、そんな人生を送ることになる高校球児が少しでも減ることを願っている。

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