インタビュー

「センスじゃないところで選ばれたことに、価値があったと思います」|河合 智紀さん

河合智紀さん インタビュー

写真提供:河合智紀さん

軟式の古豪・龍谷大平安高出身の河合智紀(かわい ともき)さん(龍谷大4年)は、2020年度、21年度に大学軟式野球の全日本代表に選ばれた。

2年連続で高校軟式出身の野手が選出されることは、異例の出来事だ。さぞ、華々しいキャリアを歩まれたのだろう、と想像していたのだが、本人の口から出てくる言葉は、それとはかけ離れたものだった。

「センスがある選手ではなかったと思います」と、冷静にこれまでの道のりを振り返った。

高校軟式から2年連続で大学軟式日本代表に

小学3年生で野球を始めた。高校は当初、自転車競技部に入ったが、今しかできないチームスポーツに魅力を感じて、1年生の冬前に軟式野球部に転部した。河合さんの世代は秋、春、夏と一度も近畿大会への出場を果たせず。1年半の短い高校野球だった。

引退後、同世代の硬式の日本代表が世界と戦っているところを見て、「軟式の日本代表」が気になった。そこで「大学軟式野球の日本代表」を知り、「これだ」と目標が決まった。

入部した大学の軟式野球部は、色んな意味でそれまでの環境とは違っていた。部は「同好会」の位置づけで、指導者はおらず。練習は週に2、3回程度で、学校から離れた河川敷のグラウンドには、数人しか集まらないこともあった。

しかし「今から思えば、僕にはこの環境が合っていたのかもしれません」と振り返る河合さん。チーム練習が少ない分、自ずと自主練習が増えた。縁があったクラブチームのサポートも受けながら、自己分析に圧倒的な時間を注いだ。

すべての試合の打席や練習をスマホで撮影して、何度も見た。知人の理学療法士にアドバイスをもらったり、気になったプロ選手のプレーを研究。インプットとアウトプットを繰り返し、課題と正面から向き合った。

「人に助言を求めるようになったことも、大きかったです」。感覚だけに頼らず、客観的な視点を取り入れ、理屈から理解することで、プレーの質が目に見えて変わっていくことを実感した。


ときには迷走することもあったが「そのやり方が自分に合っていないと分かったことに、大きな意味がありました。大学時代に『これは失敗だった』と感じたことは一度もなかったです」。

こうした前向きな取り組みが実を結び、2年、3年時に、2年連続で日本代表に選出されることになる。

「高校軟式出身で、チームでは大きな結果を残すことができなかった自分が、センスや実績ではない部分を評価されたということに、大きな価値があったと思います」。

ちなみに2020年度は高校軟式OBから選出されたのは河合さん1人だけだったが、2022年度は7人(選手6名、主務1名)が選ばれている。「高校軟式プレイヤーまで、広く選考の対象として見ていただけるようになったのは、うれしいことです」。

河合智紀さん

一方、大学でのプレーの傍らで、地元の中学校で部活動の指導にも携わっている。他では受けられない指導をしてあげたい、と自身の知識や経験を未来の球児に伝えている。

「高校軟式のことは……、僕からは話さないですね。進路は自分で考えて欲しいので」。

将来、プロを視野に上のレベルでプレーするなら、硬式に進むのは自然なこと。硬式をやりきったあとに、いずれ軟式に戻ってきてくれたらそれでいい、という思いが河合さんの中にはある。

「そのためにも、野球を続けてもらえるように、もしくは別のスポーツに進んだとしても『中学の部活は楽しかったな』と思い出してもらえるような指導を意識しています」。

可能性に制限をかけないで

大学軟式の魅力について河合さんは「フィジカルと技術のバランスが丁度良いスポーツ」と説明する。硬式出身者が多く、複合バットが使える大学では、高校軟式と比べてパワーやスピードが大きく異なる。

一方で守備や小技、叩きなどの軟式の醍醐味はもちろん健在で、その良いところ取りができるのが、大学より先の軟式野球の世界だ。

実際にプレーを見てみると、高校軟式とはまったく異なった競技にも映る。

「軟式野球は技術があれば、どれだけ力が強く、レベル差がある相手であっても、対等に戦えます。その『技術』は、向上心次第で伸ばせます。

大学軟式でのプレーを考えている選手には、自分の可能性を制限してほしくないと思います。これまでの経歴にとらわれず、挑戦してほしいです。

続けていれば、できなかったことができるようになったり、自分の能力を活かせる道が見つかるはずです。それがスポーツの面白いところだと思います」。

エリートでなくても、実績がなくても日本代表になれる。それを自身の取り組みで証明した河合さんの言葉には、ずっしりと響く重みがある。■

河合智紀さん

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