インタビュー近畿

前例なき「明石で廃部」。報徳学園軟式野球部の最後の3年間

報徳学園軟式野球部

2023年8月、第68回全国高校軟式野球選手権大会に3年生11人だけで出場した報徳学園軟式野球部。1回戦で敗退し、その試合を最後に高校軟式の舞台から姿を消すことになった。

全国大会で部の歴史に幕を下ろすというセンセーショナルな出来事に、当時は多くの高校軟式ファンが心を痛めた。あの夏から、早くも3年が経った。


コロナ禍の2021年4月、報徳学園中学校から進学した宗宮浩輝(そうみやこうき)さんは硬式でマネージャーをするか、軟式でプレーを続けるか迷った末に軟式野球部を選んだ。同じく同中で野球を始めた柚之上暁斗(ゆのうえあきと)さんも、出場機会と学業との両立を求めて軟式野球部に入部した。

しかし僅か数ヶ月後に二人が思い描いていた高校生活は一変する。練習前に全部員が教室に集められ、監督から2年後の夏に廃部することが決まったと告げられる。グラウンドの確保が難しいこと、教員の働き方改革などがその理由だった。監督も数日前に学校に方針を告げられたばかりだった。

「当時はよくわからなかったというか、ただ受け入れるしかなかったです」と宗宮さん。当初はそこまで深く意識していなかったが、2年生になっても下級生が入ってこないことや、全国に廃部のニュースが知れ渡るようになることで、徐々に「自分たちが負けたら終わるんだ」という実感を伴うようになる。

それでもチームは破竹の勢いで勝ち続けた。2年生の春に近畿大会で準優勝、夏の兵庫も制して6年ぶりの全国へ。柚之上さんは四番で1回戦の作新学院戦に出場した。新チームも秋の近畿大会を制覇。春も近畿大会ベスト4とチームは完全に良い流れに乗ったかのように見えた。

報徳学園軟式野球部

報徳学園3年時の宗宮さん(左)と柚之上さん(右)

しかし夏の選手権予選を目前に、チームは突然の不調に陥る。練習試合では全く点が取れなくなり、ことごとく負け続けた。11人の高校3年生にとって約四半世紀の部の歴史を背負うことは荷が重すぎた。目に見えない重圧がのしかかるなか、最悪の状態で兵庫予選を迎えた。

初戦の2回戦・育英戦も得点できないまま0-0でタイブレークに入った。「負けも覚悟した」(柚之上さん)という10回、宗宮さんがタイムリーで口火を切ると、一挙9得点で息を吹き返した。そのまま準決勝、決勝を勝ち上がり、後がないチームは2年連続4回目の明石に到達した。

開幕前から大きな注目を集めた全国の1回戦で専大北上と対戦。初回に絶対的エースの勢志(せし)投手が打ち込まれ、攻撃では僅か2安打に封じられ、0-5の完敗だった。宗宮さんと柚之上さんはそれぞれヒットを放ち、報徳学園軟式野球部としての最後の試合で名を残した。

灯し続ける報徳軟式の火

「(廃部は)プレッシャーにも力にもなった。報徳軟式でプレーして出場機会をたくさんもらえたことは良かった」と振り返る宗宮さん。柚之上さんも「礼儀など大切なことを学べたし、野球を続けたからこそ、今でもたくさんの人との出会いがある。そこには硬式も軟式も関係ない」と、二人とも軟式を選んだことに後悔はない。

卒業後、宗宮さんは関西六大学リーグに所属する甲南大学軟式野球部に入部。2年生の春からレギュラーになり、同年秋にはリーグ安打数2位を記録。柚之上さんも同リーグの関西大学軟式野球同好会で3年生(今年)の春にリーグ本塁打王、一塁手としてベストナインを獲得。8月に長野県で開催された全日本選抜大会では8強入りし、高校時代の全国ベスト16の記録を超えた。

報徳学園軟式野球部

現在は関西六大学軟式野球リーグで活躍する柚之上さん(左)と宗宮さん(右)

ただ、廃部が美談になることは決してない。彼らにはもう帰る場所はなく、他の元球児にはある「人生の拠り所」がすっぽりと抜けてしまっている。母校の応援はできず、毎年夏が来れば「報徳学園」がいないトーナメント表を眺めることが、この先もずっと続いていく。

仮にチームが存在していれば「全国開催県の門番」として、私たちがいま見ている高校軟式とは全く別の世界が待っていたかもしれない。

一度、失ったものを再びつくることは、時としてそれをゼロから生み出すよりも困難を伴う。とくに高校軟式において廃部になったチームが復活した例は長い歴史の中でも数えるほどしかない。廃部の主な理由が「部員数以外」によるものなら、なおさら難しくなる。

失ってその価値に気づいても、時間を戻すことはできない。


それでも、彼らの中で報徳軟式は生き続ける。大学の活動とは別に、1学年上の世代と「報徳学園軟式野球部OBチーム」をつくる計画を進めている。先日、関西近郊の草野球大会に出場して、久しぶりに当時の選手たちが一緒にプレーした。

柚之上さんはそのチームのユニフォームをデザインした。緑色の生地に胸には「HOTOKU」の文字、背中には二宮尊徳翁のシルエットを入れるつもりだと目を輝かせながら教えてくれた。

所属したすべてのOB、関係者の「誇り」が込められた特別なユニフォームを身にまとい、これからも報徳軟式の火を灯し続けていくつもりだ。

その時が、やって来るまで。

報徳学園軟式野球部

 

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