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軟式ボールのリニューアルは高校軟式野球を変えるのか

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2016年12月1日、軟式野球にかかわる重要なニュースが飛び込んできた。

軟式ボールの規格変更=バウンド抑え、飛距離維持ー野球:時事ドットコム

2017年12月に軟式ボールの意匠変更が行われることが発表された。軟式ボールのデザインが変更されるのは2005年12月以来、12年ぶり。



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より、硬球に近づく

全日本軟式野球連盟と野球ボール工業会は12月1日、軟式ボールの新意匠の概要を発表した。

これまでのA号、B号、C号は、A号とB号がM号(メジャー)に、C号はJ号(ジュニア号)に変更される。高校軟式野球で使用されることになるM号は、現行のA号と比較し、大きさは変わらず、重さは約2g増える。

新しいボールはこれまでよりも低く弾むように反発が抑えられる一方で、飛距離が変わらないようにするため硬くなる。

変更の狙いは硬式への移行のしやすさ、競技の普及

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この変更の主な狙いは「より硬式に移行しやすくするため」だという。「軟式から硬式」に移行することを前提とした変更である。このことについて、ここで意見を言うつもりはない。この変更により、中学生の高校硬式野球へのスムーズな移行という目的が達成され、ひいては野球という競技の普及に繋がるのであれば、この変更は大変意義のあることだと思う。前向きに捉えたい。

しかし、安易に予想できることがある。

M号が中学生から使用され、しかも高校でもボールが変わらないことで「軟式野球=中学生までのスポーツ」という世間の見方が強まることは間違いないだろう。高校軟式球児は、今以上に周囲から「なんで、軟式野球?」という視線や直接的な言葉受けることが増えるかもしれない。

12年前、高校軟式野球は変わったのか

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画像出典:ケンコーボールA号「新モデル」スペック ストロングリーグ草野球・軟式野球

個人的な話だが、筆者は12年前の意匠変更の際は、その真っ只中にいた。秋の大会が終わり本格的な冬練シーズンに入ると、新規格のボール(現行)で練習を開始した。当時「来年からボールが変わる」ということは聞かされていたが、今でもまっさらな新球で初めてキャッチボールしたことを鮮明に覚えている。

12年前の意匠変更は実に55年ぶりのものだった。

・大きさと重さ、反発力はこれまでと変わらない

・約10%飛距離が伸びる

・ディンプルがほとんどなくなり、縫い目が高くなったことで、直球はより伸びるように、変化球はより大きく変化するようになった

・2バウンド以降の高さを抑えた

ボールの変更当時はこのように説明されていた。

(ちなみにこの時も、「より、硬式に近づく」と謳われていた。)

果たして12年前のボールの変更は、高校軟式野球に変化を与えたのか。

ボールが変更される前の11年間(1995年から2005年)とボール変更以後の11年間(2006年から2016年)とで、全国選手権決勝のスコアを比較してみた。

変更前 第40回(’95)〜第50回(’05)

※カッコ内の長打の数は内数

  

得点 三振 安打 (本) (三) (二)
第40回(1995) 作新学院(北関東) 6 2 11 0 0 0
能代(北東北) 1 1 6 0 0 1
第41回(1996) 中京商(東海) 4 3 8 0 0 3
松山商(四国) 0 17 3 0 0 0
第42回(1997) 仙台商(南東北) 0 1 5 0 0 0
育英(兵庫) 4 5 5 0 0 0
第43回(1998) 中京商(東海) 4 3 8 1 0 1
平安(近畿) 3 6 7 0 1 1
得点 三振 安打 (本) (三) (二)
第44回(1999) 浜田(東中国) 0 9 3 0 0 0
中京商(東海) 7 1 7 0 1 0
第45回(2000) 四日市(北部九州) 3 8 5 0 0 0
(延11回) 広陵(西中国) 4 5 6 0 0 2
第46回(2001) PL学園(大阪) 4 2 8 0 0 0
仙台育英(南東北) 0 3 3 0 0 1
第47回(2002) 仙台育英(南東北) 3 3 6 0 1 1
日出学園(南関東) 1 5 6 0 0 1
得点 三振 安打 (本) (三) (二)
第48回(2003) 作新学院(北関東) 1 8 6 0 0 3
(延長13回) 大津(西中国) 2 8 7 0 0 1
第49回(2004) 四日市(北部九州) 2 2 6 0 0 1
文星芸大附(北関東) 0 1 4 0 0 0
第50回(2005) 朝倉東(北部九州) 0 3 6 0 0 0
神港学園(兵庫) 3 5 2 0 0 1
得点 三振 安打 (本) (三) (二)
合計 52 101 128 1 3 17
試合チーム平均 2.36 4.59 5.82 0.05 0.14 0.77
得点差平均 3.09

変更後 第51回(’06)〜第61回(’16)

※カッコ内の長打の数は内数

※第53回(2008)は延長15回引分再試合

大会 チーム 得点 三振 安打 (本) (三) (二)
第51回(2006) 中京(東海) 0 6 2 0 0 0
作新学院(北関東) 1 8 4 0 1 0
第52回(2007) 富山商(北信越) 0 3 6 0 0 1
新見(東中国) 3 5 7 0 1 0
第53回(2008) 中京(東海) 0 7 8 0 1 1
(15回引分) 作新学院(北関東) 0 5 5 0 0 0
第53回(2008) 中京(東海) 1 5 5 0 1 1
作新学院(北関東) 5 2 8 0 0 0
大会 チーム 得点 三振 安打 (本) (三) (二)
第54回(2009) 作新学院(北信越) 3 1 8 0 1 1
名城大附(東海) 1 11 3 0 0 0
第55回(2010) 新田(四国) 1 6 5 0 0 0
能代(北東北) 2 11 3 0 1 0
第56回(2011) 作新学院(北関東) 1 8 5 0 0 0
(延11回) 中京(東海) 2 7 7 0 0 1
第57回(2012) 中京(東海) 2 5 7 0 1 0
(延10回) 文徳(南部九州) 1 4 4 0 0 1
大会 チーム 得点 三振 安打 (本) (三) (二)
第58回(2013) 新田(四国) 2 6 3 0 1 0
(延11回) 横浜修悠館(南関東) 3 9 8 0 0 1
第59回(2014) 三浦学苑(南関東) 0 9 3 0 0 0
中京(東海) 2 5 5 0 0 0
第60回(2015) 能代(北東北) 0 5 6 0 0 1
作新学院(北関東) 2 3 8 0 0 1
第61回(2016) 早大学院(東京) 0 7 3 0 0 1
天理(近畿) 5 4 6 0 0 1
得点 三振 安打 (本) (三) (二)
合計 37 142 129 0 8 11
試合チーム平均 1.54 5.91 5.37 0 0.33 0.46
得点差平均 2.09

変更前、変更後の合計・平均欄を並べると以下のとおり。

得点 三振 安打 (本) (三) (二)
合計 ’95-’05(11試合) 52 101 128 1 3 17
’06-’16(12試合) 37 142 129 0 8 11
試合チーム平均 ’95-’05 2.36 4.59 5.82 0.05 0.14 0.77
’06-’16 1.54 5.91 5.37 0 0.33 0.46
得点差平均 ’95-’05 3.09
’06-’16 2.09

この数字だけを見て言えることは、

・点は入りにくくなった。

・1試合あたりの三振数は増えた。

・1試合あたりの長打の数は減った。

すなわち、12年前のボールの変更は投手に有利にはたらき、得点が入りにくくなり、僅差の試合を増やすという結果をもたらしている。

しかし言うまでもなく、上記の数字は全国選手権の決勝という限られたものであり、また、20年以上もの歳月が過ぎれば、ボール以外の道具や高校生の基礎体力から周辺環境まで大きく変わっただろうから、その要因を特定することは容易ではない。

2018年、高校軟式野球は変わるのか

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このニュースがリリースされて以降、一部ファンや愛好家、選手の中には「軟球が硬球に近づくことで、軟式野球の魅力が低減してしまう」と危惧する声が上がっている。

正直、こればかりはやってみないと分からないと思う。

しかし、個人的にはあまり悲観はしていない。この国で少年世代からお年寄りまで、幅広い年齢層に普及している伝統ある軟式野球が、これまでも何度も行われてきている意匠変更たった1度で、競技性が変わってしまう程ドラスティックに変貌するとは到底考えにくい。

それよりも、例えばボールが弾まなくなることで今までは成功していた叩きで得点が入りにくくなり、これまで以上に1点を争う試合が増える、といった変化も予想されるのではないか。

時代の変遷によって形を変えていくのはスポーツも例外ではない。一方で年輪を重ねることで、唯一無二の魅力を纏ったスポーツに昇華してきた軟式野球は今、更なる進化を遂げようとしている。

プレーする選手にとっても、観る人にとっても、”ヒリヒリする”たまらない試合がこれからも続いていくことを一ファンとして願っているし、また、確信している。



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